製造業において「生産計画を立てる」というのは非常に難しい業務です。
生産量の決定から始まり、「どこで」「何を」「いつ」「どれだけ」「どんな順番で」作れば、「効率的に」「在庫を最小限に抑え」「欠品を起こすことなく」製品を用意できるかを考えるのは容易なことでは無いからです。
さらに加えて「どこで保管するか」とか「どこから店舗に運送するか」という問題も絡んできます。
こういった全てを考慮して、限られた時間で極力「無駄の無い計画」を立てることを求められたとしても、人間の能力には、限界があります。
ところが、数理最適化という技術を使えば、常に最適な計画を立てることができるのです。
この記事では、かっこが実際に数理最適化を用いて解決した、「生産計画を立てる業務」の自動化について、そのプロセスと、効果について、まとめてみました。
目次
結論
数理最適化を適用したことで
- 属人性から脱却できた
- 計画において最小化したい、「ロス」の計算方法が明らかになった
- 人間が作るより無駄のない計画を立てられるようになった
- 人間が、その業務から解放された
あらすじ
製造業のA社は、日本全国に工場を持っており、そこで様々な製品を作っています。
生産を計画するにあたっては、ある期日までに必要な生産数を、どこで作るのか、それが作りきれない場合、なにを優先するのかを考える必要がありました。
さらに、ひとつの生産ラインで別のものを作り始める際に、塗料の入換などで「ロス」が発生してしまうため、生産順も考えなければなりません。
この生産計画作りにはマネージャーが数人がかりであたっていましたが、計画を工場に送ると、工場長が現場の勘による独断で、それを変えてしまうようなことも日常的に発生していました。
その結果、今より生産性を改善したいと考えても、いったい何をどうしたら良いものか、誰にも答えが分からないような状態で、全国の工場は生産を続けていました。
このプロジェクトでは、このような属人性を排して、生産性を最大化できるような「計画」を毎日、計算によって算出することが求められました。
やったこと
やったことは大きく3つです
- 計画を評価できるように、切替時のロスを厳密に定義する
- 数理最適化の技術で、最適な計画を立てる
- いつでも計算できるようにシステム化する
切替時のロスを厳密に定義
まず何より最初に行ったのは、「理論上計算できる状態にする」ことでした。
もちろん、製品を作るのに必要な「どこで何が生産できるのか」や「ある製品を一つ生産するのにかかる時間」や「1ロットいくつか」などの情報も整理が必要でしたが、一番問題だったのは、塗料の入換などの「ロス」が、全ての製品の組合わせで、金額的に、あるいは時間的に、どれだけになるのか、誰にもわからなかったことです。
これは、まずA社の担当者に「人間が計画しているときにどのように考えているのか」から、A社にとって納得感のある計算方法を提案してもらい、それに対してかっこがその計算方法に必要な情報を提示して、そのデータが用意できるかどうかを検討してもらう という流れで定義を決めました。
このヒアリングの過程で、生産計画を立てるチームが、実は独自の判断で、欠品リスクを考慮して、在庫を多めに持つような計画を立てていたことも判明しました。
最適な計画を立てる
計算式さえ立ててしまえばあとは単純…というわけでもありません。
専用の計算エンジンを使って、何千何万という数の制約式のある最適化問題を解いていきます。でも、ここで得られた結果が、実は”全然使えない”計画になることもあるのです。
例えば「輸送は2枚1セットで行うため、常に生産量は偶数でないとこまる」など、現場の人しかわからないようなルールはたくさんあります。
このように、現場の実態に合わせるためのフィードバックを貰っては、それを制約条件に加え、計算し直す というループを納得するまで繰り返しました。
システム化
最終目的は、計画を立てる業務を自動化することです。
そのためにはA社の担当者がいつでも自由に最適化計算を実行して計画を取得できるようにする必要があります。ここではクラウド上に用意したシステムを通じて、「各製品の製造したい量と工場の稼働時間」をまとめたCSVを投入すると、「最適な計画」のCSVが出力されるようにしました。
得られた効果
属人性から脱却した
これまでは、厳密に切替ロスを計算する方法が定かではないなか、人間が経験に基づいて計画を作っていました。
この状態では、その人の計画が「良い計画であるか」が、評価できないだけでなく、「長年の経験から来る勘」がないと、計画が立てられないという課題がありました。
今回、切替ロスを明確に定義したことで、計画は定量的に評価できるものになりました。
またシステム化したことで、熟練の経験者が退職しても、高い精度で計画を立てられるようになりました。
計画において最小化したい、「ロス」の計算方法が明らかになった
ロスの計算方法が明らかになることで、「今までの計画との比較」や「最適な計画でもどれくらいのロスがかかるか」などをみることができるようになりました。
これができることで、その時々の要請、例えば「今回だけ、できればこれを先に作りたいのだけど、それを変えるとどれくらい全体のロスが増えるか」などを計算した上で、どうするかを人間が判断できるようになりました。
人間が作るより無駄のない計画を立てられるようになった
これが一番わかりやすい効果で、無駄のない計画が立てられることで、単純にコスト削減になり、会社の利益が大きく増えました。
人間が業務から解放された
計画を立てるのにマネージャー数人が、かかりきりだった状態も、システム化したことで、複雑な計画を数分程度で作成出来るようになりました。
マネージャーのみなさんは、計画作成業務から解放され、人間が得意とする業務に専念できるようになりました。
このように、データサイエンスをビジネスに実装するうえでは、単に、「データを集めて計算だけすれば、それでよい」わけではありません。
ビジネスの現場で起きている実態や、制約を丁寧に取材して、条件に加えたうえでそれを計算式に表現していく、きめ細かな対応が求められます。
あきらめていたその課題も、ぜひ、かっこのデータサイエンスにご相談ください。