中小企業の存在意義や魅力等に関する正しい理解を広く醸成するために、中小企業基本法の公布・施行日である7月20日は「中小企業の日」に定められています。
テクノロジーを届けることで中小企業を支援する株式会社ココペリ(代表取締役CEO 近藤繁)と、セキュリティ・ペイメント・データサイエンスの技術で企業のチャレンジを支援するかっこ株式会社(代表取締役社長CEO 岩井裕之)。
ともに企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速するSaaS(※)型ビジネスモデルで2020年12月にIPO(新規株式上場)を果たした両社のトップが、「これまでの事業展開の経緯」「IPOまでの道のりとIPO後の変化」、そして「今後の展望」について語り合いました。
※ Software as a Serviceの略称。ユーザーがネットワークを経由してソフトウエアを利用する形態のサービスのこと。
■ココペリとかっこの出会い
ー最初の出会いを教えてください。
近藤: 2016年の横浜銀行さんとの「トランザクションレンディングの実現に向けた産学連携によるコンソーシアム」でしたよね?かっこさんはどんな経緯で このプロジェクトに参加したのですか?
岩井: 2016年3月にSBIインベストメントさんが運用するFintechファンドから出資を受けたのですが、横浜銀行さんがその出資者にいらっしゃったので、そのご縁です。
近藤: 当社も同じです。このコンソーシアムは、新しい融資モデルを作るのが目的で、同じ会計データを使ってかっこさんの統計モデルとココペリのAI(ディープラーニング)モデルとを比較しましょうというものでしたよね。残念ながら、最終的に実装には至らなかったのですが、当時、AIエンジニアと4帖くらいの部屋を借りて、そこに3ヶ月ぐらい籠もってモデルを作りました。今、当社の提供するAIモジュール「FAI」で使っている口座の入出金から判断する融資モデルの元となったのはそのときのモデルなんですよ。
ー初対面でのお互いの印象は如何でしたか?
近藤:(岩井社長は)誠実そうな人だなと。
岩井:(近藤社長は)AIのイメージがあったので、もっと硬い人だと思っていましたが、意外にも砕けた人でした(笑)。
近藤: その後にSBIインベストさんのイベントでもお会いしましたよね。「かっこさんは資金調達するの?」と聞いたら、「うちはもう要らない」と言われて、羨ましいなと思ったのを覚えています(笑)。
■これまでの事業展開の経緯
ーこれまでの事業展開の経緯を教えてください。
近藤: 創業当初は中小企業向けのバックオフィス支援からはじめ、士業の先生にもっと簡単に経営相談できたら中小企業はすごく助かるのではないか、と考え、2015年に専門家相談プラットフォーム「SHARES(シェアーズ)」をリリースしました。
そして、さらに中小企業の成長支援を何かできないかと考えたときに、中小企業の経営課題として上位にあがってくるのはやはり資金繰りなんですよね。でも、旧来の融資モデルでは年1回の決算書で判断されてしまう。折角商機を掴んで融資を申し込んでも、過去の決算書でしか判断されないという状況を打開したくて、月次の会計データを活用した企業評価のAI与信モデル「FAI(ファイ)」を開発しました。
これらの当社のWEBサービスをもっともっと多くの企業に使ってもらえるようにしたかったのですが、ITを使いこなせる企業にしか届かない。ちょうどその時に横浜信用金庫さんから一緒に何かできないか、ということで中小企業向けの経営支援プラットフォーム「Big Advance(ビッグアドバンス)」の開発が始まったんです。
岩井: そういう経緯だったのですね。先日、「Big Advance」が紹介されている動画を拝見しました。「Big Advance」は金融機関を通じて提供されていますが、個々の金融機関の垣根を超えて、横断的に全国の中小企業同士がビジネスマッチングできるんですよね。
近藤: そうなんです。2021年6月では月間4500件以上のビジネスマッチングの申込みがあったのですが、70%が金融機関を横断したマッチングとなっています。コロナ禍でリアルでの商談会の場がなくなってしまっていたり、企業の方々も移動が制約されたりもしていますし、そもそもベストなマッチング相手が近隣にいるとは限りませんしね。
岩井: すごい数ですし、金融機関にとってもありがたいサービスですよね。
近藤: はい。金融機関にとっても「Big Advance」を通じたビジネスマッチングで融資先の本業支援ができますし、さらに、社内チャットツール、補助金・助成金取得支援、HP作成機能などの便利機能も提供できますので、金融機関にとってもその融資先である中小企業にとってもWin-Winのサービスなんです。
岩井: 世の中にこういうサービスって今までなかったですよね?
近藤: なかったですね。ですので、顧客開拓には苦労しました。今でこそ多くの金融機関・企業に使っていただいていますが、金融機関の2社目が入るまでに9ヶ月かかってます。そこまでが長かったのですが、2社目の静岡県の静清信用金庫さんから徐々に広がっていきました。
岩井: ココペリさんのVISIONに「中小企業にテクノロジーを届けよう。」とありますが、中小企業へのフォーカスは初めからずっとあったのですか?
近藤: はい。そこは創業当初からずっとありましたね。それと、1社でも多くの企業に当社のサービスを利用してもらうには「テクノロジー」を活用することが必須だと考えています。
近藤:かっこさんはどんな経緯で「O-PLUX」を開発されたのですか?
岩井: 創業当初は不正検知のコンサルティングをしていて、大手企業のネット広告不正に関する対策プロジェクトに携わったりしていたのですが、様々な不正対策に取り組む中でノウハウが蓄積していき、不正対策の分野なら日本でNo.1になれるかもしれない、と思うようになりました。当時は、金融機関や大手企業しか不正対策できていない状況だったので、培ったノウハウを仕組化し、あらゆる企業がもっと手軽に不正対策ができるサービスを提供したいと考え「O-PLUX」を開発しました。
近藤:「O-PLUX」は“不正注文”を検知するサービスですよね?どうやって検知しているのですか?
岩井: 「O-PLUX」は、主にネット通販において商品だけ受け取って代金を支払わないような“不正注文”を検知するサービスなのですが、データサイエンスの技術を用いて注文データを分析し、不正者に顕著な情報や行動パターンをルール化した当社独自の審査モデルによって検知しています。また、利用企業からフィードバックいただく不正注文データを利用企業横断で活用できる共有ネガティブ機能も提供しています。お陰様で「O-PLUX」は現在国内導入数No.1(※)ですので、不正注文データを日本で最も多く取得・蓄積しており、それらのデータを学習することでさらに検知精度が高まってプロダクトのクオリティが上がっていくという、好循環を構築できていることが優位性のポイントでもあります。
近藤: 導入数No.1はすごいですね。
岩井: ありがとうございます。ただ、不正対策のニーズは、今のところごく一部しか顕在化しておらず、潜在層が多い状態なので、まだまだ市場を網羅できていないと思っています。
近藤: なるほど。かっこさんは「O-PLUX」の他に「データサイエンスサービス」も提供されていますが、不正検知に活用している技術やノウハウがもとになっているのですか?
岩井: はい。データサイエンスの可能性は創業当初から感じていたので、不正検知に活用するべくデータサイエンティストを採用したのですが、不正検知にだけ取り組んでいては技術やノウハウの蓄積に限界があると感じ、様々な分野で新たな知見をためるためにも、データ分析サービスを外販することにしました。今まで勘や経験に頼っていた判断をデータに基づいた判断材料を提供することで、お客様のDX促進にも貢献しています。サービス開始にあたっては、数学者でもデータサイエンティストでもない、ビジネス企画畑の人間を中心にスタートさせたんですよ。
近藤: え、あの方、データサイエンスティストではなかったんですか?(笑)
岩井: 実は、そうなんですよ (笑)。でも、そのアサインのお陰で、ビジネスインパクトを重視した分析や、お客様の目線に立ったレポーティングなど、データサイエンスをわかりやすく提供できていると思います。
※ 株式会社東京商工リサーチ「日本国内のECサイトにおける有償の不正検知サービス導入サイト件数調査」2021年5月末日現在
■IPOまでの道のりとIPO後の変化
ーIPOを目指したきっかけは何でしたか?
近藤: 腹を括ったのはベンチャーキャピタルから出資を受けた瞬間です。それから「Big Advance」をリリースしたタイミングで準備を本格化させました。やはり、「Big Advance」を、中小企業のインフラにしたい、という想いがあったので、運営母体としてしっかりと強い組織にする必要があると思ったので。最終的には、主幹事契約をしてから2年も経たずに上場することができたので最短だったと思います。その期間は濃密すぎて今や記憶がないですが(笑)。
岩井: 私は起業当初から「いつかはIPOしたい」という想いはあったのですが、近藤さんと同じく最初のベンチャーキャピタルからの出資が入ったタイミングで強く意識しました。ただ、当社は準備の過程でいろいろな試練があって、IPOスケジュールを2回延期するなど、IPOまで結構時間がかかりました。特に、資金面では苦労しましたね。2015年後半から2016年の初め頃が一番苦しい時期でした。結局、従業員に対して状況を正直に話したうえで社内体制を立て直し、その後何とか資金調達できたのですが、ちょうどその後に近藤さんとお会いして「調達するの?」と聞かれたのですよ(笑)。
近藤: なるほど、それで「うちはもう要らない。」ということだったのですね(笑)。当社も資金面では苦労した時期があって、シリーズAでベンチャーキャピタルから資金調達したあとの2016年頃が一番苦しかったと思います。アクセルを踏むと資金って思ったより早くなくなるんですよね。結果的にはシリーズBで資金調達できたので難を逃れましたが、社員の給料を払えるか払えないかというギリギリの状態でした。あの時は精神的に本当にきつかったですね。資金繰りが回らないと、すべての思考がストップしますよね。
岩井: 私も、寝ている時に、急に起きることもありました。
近藤: わかります、寝られなかったり悪夢にうなされたり。でも、そういった苦労の中で、IPOスケジュールが延期になってもIPOを目指し続けよう、というモチベーションはどうやって保ったのですか?
岩井: ずっとIPOしようと準備を進めてきたので、「やってやろう」という気持ちで突き進んでいった感じですね。今回IPOできたのは、様々な試練の中で、プロダクトも会社も骨太になり、メインビジネスである「O-PLUX」が着実に成長できたからだと思っています。
ー実際にIPOして何か変化はありましたか?
岩井: 最初の3ヶ月はIRなど初めてのことが多く、慣れない時期はありましたが、社員や、特に役員陣にいい緊張感が生まれて、社内の“やる気”が高まっているのを感じますね。
近藤: IPOしてから、良い出会いや選択肢が増えたり、他に会社組織のことに使う時間が増えました。社内の雰囲気は、新しいメンバーが多くなってきて新しい風が吹いているなと感じますね。これまでとは違った雰囲気もあります。
岩井: ココペリさんは上場後にいろいろと制度を変えられたんですよね?
近藤: 上場した後にさらに圧倒的に成長するためにはどうしたらいいかを上場前からずっと考えていました。上場はゴールではなく、ここからもう一段成長するぞ、というメッセージ込めて、上場したあとの新しい期が始まる4月に、会社の大枠の仕組みを全部変えました。
まずは、目標管理を全廃し、OKRを導入しました。これによって会社の方向性を各メンバーが認識しやすくなるのと同時に、自分のやっていることが会社の事業にどう貢献しているか、チームがどう貢献しているかもわかるようになりました。また、働き方については、出社やリモートワークなどパフォーマンスを最大化するための働き方を自分たちで日々選択できるハイブリットワーク制度に変更しました。一方で、リモートワークが多くなるとどうしても結果だけを評価しがちですが、私は、正しいプロセスは未来の結果だと考えているので、働き方を変更すると同時に、プロセス評価をきちんとできるようコンピテンシー評価も導入しました。加えて、メンバー同士のリアルなコミュニケーションも大切だと思っていますので、イベント開催や社内への発信などをまとめたコミュニケーションマップを作り、今後充実させていく予定です。
岩井: なるほど。働き方に関しては、当社は、2018年から徐々に柔軟な働き方の導入を進めました。まずはフレックスタイム制を導入し、リモートワークも週1回の運用からはじめたところでコロナ禍になったのです。2020年の2月末に政府から学校や保育園に対して休校要請が出たことをきっかけに一気にフルリモートに切り替えました。
近藤: フルリモートにすることに葛藤はなかったですか?
岩井: 当初はありましたね。かっこは真面目なメンバーが多いので目の前の業務という意味では心配はなかったのですが、コミュニケーションロスが起こり、企画など生まれにくくなることで、中長期的な会社の成長に影響が出るんじゃないかという不安があったんです。ですので、フルリモートに切り替えた当初は、戦略ミーティングなどは躊躇せず対面で行いましょう、業務直結だけでなく自由にコミュニケーションできるように企画しましょう、と社内に通達を出したりもしましたが、各部署の状況を確認したら大きな問題がなかったこともあり、恒久的な制度にしました。今は全く心配していないですね。
近藤: フルリモート切替後に採用された方々の受入れはどのようにされているのですか?
岩井: 社員については、初日は出社して社内ルールや業務の概要など基本的なレクチャーを行い、それから1週間程度はコミュニケーションを深めつつオフィスで詳細なレクチャーを行いますが、それ以降は基本リモートワークですね。一方、当社ではコロナ以前からインターン制度に力を入れていて、現在約20名のインターン生がいるのですが、なかには地方在住や海外在住のメンバーもいますので、初日からフルリモートのケースも珍しくありません。今年4月に新卒入社してくれたインターン生の一人も、新潟からずっとリモートでインターンをしていたメンバーなんですよ。これは、インターン生の教育プログラムが出来ているから可能なことなのだと思います。
■今後の展望
ー最後に、今後の展望について教えてください。
岩井: 当社のお客様は、ECサイトや決済プラットフォームを運営している企業が多くいらっしゃいますが、近年、EC市場が成長を続ける一方、クレジットカードの不正利用や不正アクセスによる被害が急増しています。当社は、メインプロダクトである「O-PLUX」をはじめとした不正検知サービスをさらに進化させ、より多くの企業にご利用いただくことで、EC・オンライン取引・キャッシュレス決済等の安全なインフラ構築に貢献していきたいと考えています。また、最近、ECは調子が良いけれどリアル店舗が厳しいというお客様の声をよく伺います。こういった課題に対しては、不正検知サービスだけではなく、データサイエンスサービスを通じてマーケティングやコスト合理化の戦略や施策を見直すお手伝いをしていきたいと考えています。
当社は、今後も社会の変化に適応しながら、セキュリティ・ペイメント・データサイエンスの技術でお客様の課題解決に伴走し、お客様の“まずやってみよう”というチャレンジを支援していきたいと思っています。
近藤: 「Big Advance」は現在5万社ほどの企業にご利用頂いていますが、まずは利用企業をもっともっと増やし、1社でも多くの企業にサービスを届けたいと思っています。コロナ禍によってDXはかなり加速していて、このDX加速の流れは地域企業に大きなチャンスだと思います。これまで地域に眠っていた技術やプロダクト、サービス、そしてストーリーなど、デジタルを活用することにより、全国・全世界へ発信することが可能です。ぜひその手段のひとつとして「Big Advance」を使っていただけるようサービスを磨いていきたいです。そして、MISSION・VISIONの実現に取り組む中で、中小企業が成長し、経営者やそこで働く社員全てが誇りを持てる世界を作りたいと思っています。
今後も、テクノロジーとFace to Faceの融合で、温かみのあるWEBサービスを世界に広げていきたいと思います。
【株式会社ココペリ】
所在地:東京都千代田区二番町8-3 二番町大沼ビル4階
設立:2007年6月
代表取締役CEO:近藤 繁
事業内容:ビジネスプラットフォーム事業
・中小企業向け経営支援プラットフォーム「Big Advance」の開発・運営
・AIモジュール「FAI」の開発等
URL:https://www.kokopelli-inc.com/
【かっこ株式会社】
所在地:東京都港区元赤坂一丁目5-31
設立:2011年1月
代表取締役社長CEO:岩井 裕之
事業内容:SaaS型アルゴリズム提供事業
不正検知サービス、決済コンサルティングサービス、データサイエンスサービス
URL:https://cacco.co.jp/