「在庫を持ちすぎて、値下げや廃棄が増えている」
「欠品が怖くて発注を守りに寄せたら、売上の伸びしろが作れない」
こうした悩みは、在庫を扱う現場で起きやすい論点です。
この記事は、2025年10月にかっこ株式会社が開催したECオンラインカンファレンスで、株式会社デザインフィル様が語ってくれた、日付品における需要予測と在庫判断の改善事例をまとめたものです。

※ECオンラインカンファレンス2025の詳細はこちら。受付は終了しております。
この記事でわかることは次のとおりです。
- 日付品で需要予測が難しくなる理由
- 廃棄率を約半分まで下げたデータ活用3つのポイント
- 廃棄率半減と在庫リスクの捉え方の変化
需要予測とデータ活用についてお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。

澁谷 優成
文具メーカー「デザインフィル」の日付品ビジネスとは
日付品は、売れる期限が決まっているぶん、在庫判断が外れたときの影響が大きい商品です。
日付品とは、手帳やカレンダーのように、日付が入っていて「売れる期限」が決まっている商品です。
欠品と廃棄が同時に起きやすいので、発注担当者は「作りすぎない」と「売り逃さない」の両方を見ながら決める必要があります。
ここではまず、デザインフィルとミドリブランドの事業概要から見ていきます。
株式会社デザインフィルとミドリブランドの事業概要
株式会社デザインフィルは、文具を中心とした商品を扱う会社です。

※引用:株式会社デザインフィル
デザインフィルは、文具を「ライフスタイルを発信するブランド」として捉え、複数ブランドを展開しています。

その中でもミドリブランドでは、手紙・色紙・祝儀袋などの「紙のコミュニケーションアイテム」、ノートや手帳、シールやスタンプのような「記録を楽しむアナログツール」、さらにカッター・はさみ・定規などの「暮らしを便利にするアイテム」を展開しています。
日付品ビジネスで需要予測が難しくなる理由
デザインフィルでは、日付品の発注数を決める判断が、ベテラン社員の勘や経験に寄りやすい状態にありました。
予測が外れたときに欠品や廃棄が起きても、どの要因がズレを生んだのかを同じ基準で振り返りにくく、次の年に直す材料が残りにくいからです。
そのため発注担当者は、安全面を重視して守るか、売上を取りにいくために攻めるかの線引きを、毎年同じように悩みやすくなります。
デザインフィルが抱えていた在庫と需要予測の悩み
デザインフィルでは「どこをどう改善すればよいか分からない」という課題が出発点でした。
欠品や過剰在庫が起きても、現象を同じ基準で整理できないと、発注担当者は改善の順番を決められません。
そこでデザインフィルでは、社内にあるデータを使って、需要予測の精度を上げられないかを検討しました。
勘に頼った在庫判断で起きていた欠品と廃棄の悩み
発注担当者の判断が経験中心になると、判断の根拠が「人の頭の中」に残りやすくなります。
根拠が見えない状態では、欠品と廃棄が起きたときに「どちらを先に直すべきか」が整理できません。
デザインフィルでは、この整理を進めるために、受注の記録を一行ずつ見直し、「在庫があった受注」「欠品した受注」「納期が遅れた受注」といった形で扱えるようにしていきました。
廃棄率を半減させた、需要予測データ活用3つのポイント
改善が進んだ理由は、需要予測モデルだけではなく、判断の土台と運用をセットで整えた点にあります。
発注担当者が動ける状態を作るには、指標、共有、組織の3点が噛み合う必要があります。
ここでは、デザインフィルが行った取り組みを3つのポイントに分けて整理します。
①需要予測モデルとBIツールで発注判断を見える化
デザインフィルで最初に効いたのは、欠品を「感覚」ではなく「欠品率などの指標」で扱えるようにしたことです。
まず、受注レコードを一行ずつ確認し、「在庫があった」「欠品した」「納期が遅れた」を記録していきました。
こうして欠品率などの指標ができると、発注担当者の会話は「感覚」から「差の確認」に移ります。
その結果、改善の議論は「なんとなく」ではなく「どの数字を動かすか」に変わり、次の打ち手を決めやすくなったのです。

当サイトを運営しているかっこ株式会社の『Caccoのデータサイエンス』は、デザインフィルに対して「どう進めると、どんな効果が出るか」を文章で整理し、発注判断に使える形で提案しました。

また、一般既存品・一般新製品・日付品といった軸ごとにモデルを使い分け、どの指標がどれくらい改善するかをデータで示す提案も行いました。
その後、デザインフィルでは欠品率などの分析に取り組み、「まず指標を作れたことが大きな成果だった」と渡邉氏は述べています。
②BIツールで売れ方と在庫を一画面で共有した
他にも、デザインフィルでは、BIツールにデータを集約し、社内にいながら自社製品の流れを把握できるようにしていきました。
その結果、営業担当者が店舗へ行って目視で確認していた情報も、社内でデータを確認してから動く形に変わりました。
事前に得た情報をもとに、営業の行動をよりクリエイティブにできた点も効果として挙げられています。
③データサイエンス部が全社のデータ相談窓口になった
デザインフィルでは、日付品の需要予測と在庫判断を改善する中で、データを扱う役割を組織として整理する必要が出てきました。
渡邊氏は営業推進室(データサイエンス部の前身)へ異動し、2019年からかっことのプロジェクトに携わります。
同時期に基幹システム刷新も動き、外部の有識者から「データ部門を独立させ、各ブランドへ横断的に貢献する形が効果的」という助言が入りました。
こうした流れを受け、デザインフィルでは2022年にデータサイエンス部として独立し、組織運営を進めています。
データサイエンス部は、分析作業だけに閉じず、商品情報が集まる立場を生かして、商品構成や売り方の提案まで役割を広げられる、と整理されています。
【数字で見る】廃棄率半減と在庫リスクの変化
指標を基準に改善に取り組んだ結果、廃棄率が約5年で半分ほどまで下がったと渡邉氏は述べています。
数字そのものだけでなく、数字をもとに「次にどう動くか」を決める運用が回り始めた点がポイントです。
対談では、こうした運用が現場でどう生きたかを示す例として、ミドリの『紙シリーズ』が挙げられました。

『紙シリーズ』は、四季でデザインが変わり、世の中の経済の動きや気候で売れる柄も変わるため、販売してみないと販売データが不確定になりやすい商品です。
そこで、需要予測や検証のためのツールを活用して、過去の売上検証を行いやすい状態に整えました。
約300種類ほど蓄積されているデザインをシーズンごとに分析し、そのフィードバックをデザイナーへ伝え、今後のデザインの参考として活用しています。
次に、廃棄率が約半分まで下がった変化を整理します。
廃棄率が約半分まで下がった

廃棄率が下がった背景は、欠品率などの指標を作り、同じ基準で課題改善に取り組めるようにしたことです。
発注担当者が「どこを直すか」を判断できる状態になると、改善が積み上がります。
デザインフィルでは、その積み上げの結果として、廃棄率が半分ほどまで下がったという変化が出ています。
在庫リスクの幅を数値で見て攻め方を決められるようになった
デザインフィルでは、データをもとに売上の最大値と最低値を置き、在庫リスクを「幅」で把握できるようにしていきました。
リスクを見える化したうえで、営業部門など他部門の情報も合わせ、どこまで強気で仕込むかを決めていく流れです。
渡邉氏は、リスクをなくすために作らないへ寄せすぎると成長の足かせになりやすいため、リスクをコントロールしてチャレンジにつなげる考え方が社内に根付いてきた、と話しています。
具体例として挙げられたのが、段ボールカッターやレターカッターなどの『カッター』シリーズです。

『カッター』シリーズはプラスチック製品で製作期間が長く、1つ当たりの原価も高い性質があるため、品薄が続く中で強気に売り込む判断が課題になっていました。
そこでデザインフィルでは、在庫リスクを「幅」で捉えたうえで、どこまでリスクを許容してチャレンジするかを判断し、強気に売り込む活動につなげたと説明されています。
需要予測の活用に取り組む担当者へのヒント
発注担当者が最初にやるべきことは、「どこをどう改善すればいいか」を言葉にして、改善の矛先を決めることです。
データは万能ではないので、データで言い切れる範囲と、データでは届かない範囲を先に分けたほうが、改善が止まりにくくなります。
渡邉氏も「データは魔法ではない」「データの限界を捉え、データに頼りすぎず、人も頑張る」ことがうまくいくポイントだと語られています。
具体的には、日付品の提案で「6月末までの受注データなら精度高く予測できる」という示唆があっても、商談や受注の意思決定はそれより前に終わっていて、分かった時点では手遅れだった、という反省が出ています。
このズレが見えたことで、他部門(営業や広報や企画など)の情報を集約し、人の手でカバーして精度を上げる取り組みへつなげています。
最後に、データの主張を強めすぎると、新しいチャレンジの芽を摘んでしまう恐れがあるという悩みも語られています。
データを「創造性の代わり」にせず、「創造性を活かすための材料」として位置づけにすることが、重要になってくるでしょう。
まとめ

デザインフィルでは、売れる期限が決まっている日付品において、欠品と廃棄が起きやすい在庫判断の難しさに向き合いながら、需要予測とデータ活用を実務に落とし込む取り組みを進めています。
デザインフィルの取り組みとして、この記事では、
- 日付品で需要予測が難しくなる理由
- 欠品率などの指標づくりとBIツールによる見える化
- データサイエンス部が相談窓口になり改善を回し続けた工夫
- 廃棄率が約5年で半分ほどまで下がった変化と在庫リスクの捉え方
などについて整理しました。
欠品と廃棄のどちらか一方だけを見るのではなく、指標と運用をセットで整えることで、発注判断が少しずつ再現できる形になる点が印象的です。
データの限界を前提にしながら、人の判断と組み合わせて改善を回していく考え方は、発注担当者にとって参考になる内容でした。
需要予測を「作って終わり」にせず、発注判断まで落とし込むために、まずは「欠品と廃棄のどちらを、どの指標で見たいか」を言葉にして整理してみましょう。
